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【書籍紹介】稲垣栄洋『はずれ者が進化をつくる』【10月18日に買った本の紹介⑨】

『はずれ者が進化をつくる』稲垣栄洋


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これは2020年6月に発刊された本。

去年くらいまでは一般書店で平積みされているのをよく見かける人気の本だったと思うんだけど、ブックオフの110円棚にあるとは思わなくて見かけたときはびっくりした。

レジ通してもちゃんと110円だったのでかなりいい買い物だなーと思った…。掘り出し物とはこのことだったのか

新刊当時から気になってたけど、積読しちゃいそうで我慢してた本だったので、買ったからにはきちんと読んでみることにした。

 

 

レーベル紹介

この本のレーベルである「ちくまプリマー新書」は、筑摩書房が中高生向けに出している、読みやすい内容・トピックを重視した新書のシリーズ。
内容の易しさ・難しさはあくまでも著者の匙加減によるので、中には手強い本もあるっちゃあるけど、題材は中高生にも身近に感じられる良質なテーマが揃っている。
中高生に身近なものはもちろん大人にとっても身近なテーマであるし、学び直しや未知の分野への入門としても最適で、私自身もお気に入りのレーベル。

特に、伊藤若冲モーツァルトレオナルド・ダ・ヴィンチなどの歴史上の偉人を詳しく解説した、「よみがえる天才」という二年前くらいから始まったシリーズが好きで、新刊が出るたびにチェックして全刊揃えているくらい。
https://www.chikumashobo.co.jp/special/primer_genius/

そんな優良レーベルから出た『はずれ者が進化をつくる』も、例に違わず、読みやすくその上で内容も濃いという良書。
新本では7刷以上の重版を記録している。また、2021年の中学入試の国語試験で問題文として出題された回数が最も多い本らしく、その内容の良さが証明されているだろう。

 

著者紹介

著者の稲垣栄洋氏は、静岡大学大学院で教授をされている方。専攻は「雑草生態学」。
岡山大学大学院農学研究家を修了してから、農林水産省静岡県農林技術研究所を経て現在の職に就かれているそう。
https://journal.rikunabi.com/p/career/25415.html

論文の発表頻度が高かったり研究数が多かったりで、精力的に仕事をされているのが窺える。
https://jglobal.jst.go.jp/detail?JGLOBAL_ID=200901051507584618

また、中学入試の国語試験での出題実績も2021年だけでなく2019,2020年とトップらしく、学生にもわかりやすいいい文章を書くことのできる、研究・教育共に優れた方なのだと推測できる。

 

内容紹介

はずれ者の動植物

生物学、その中でも主に生物の進化(生物進化学)を取り扱っている本。

本書で主役になっている生き物は、ライオンやゾウのような大きくて強い生物ではなく、ネズミやミミズといった小さく弱いとされている身近な生物たち。

自然界では、大きくて強い生物よりも、小さくて弱いけれど、その代わりに他の生物が持ってない個性を身に付けた生物(「はずれ者」)のほうが生存に有利になる傾向がある。
その理由が色々な生き物を実例にして紹介されている。

著者が「植物学者」であるというところがポイントで、動物だけでなく野菜や花、木や草などの植物の進化についても書いてくれている。
そこが他の進化学に関する本にはないところで、生き物の成り立ちについて、動物だけではない広い視野で学ぶことができる。
「植物も生きている」という実感が湧きやすくなるし、身の回りにある自然の見方が豊かになる。

はずれ者達から人間が学ぶこと

そして、この本の最もいいところは、個性的で多様な「はずれ者」の生物たちの姿を通して、「人は誰でも存在価値がある」と、自己肯定感を励ましてくれるところにある。

ちくまプリマー新書の主な読者層である中高生は、思春期を迎えて自分と他人の境界に敏感になる年代である。
認知できる視野が広がって社会の仕組みをある程度理解できるようになるし、望もうが望むまいが、学業や部活の成績で他人との比較を強いられるようにもなる。
その中で大切になるのは、自己のアイデンティティを早い段階で確立し、他人との比較で自分を卑下しないようにすることだ。

本書の目次を見ると、「個性」「ふつう」「多様性」といった単語の意味を問うている、一見進化学とは関係のなさそうな見出しが並んでいる。
この本は、学生にとって馴染みの深い生物(理科)を題材にしながら、自己肯定や自己受容の心を養う手伝いをしてくれる。
中学入試問題に多く採用されたという実績の根拠は、この2つの掛け合わせが巧みだったところにあると思う。

アイデンティティの確立や他者との比較といった問題は、大人であっても完全に解消するのは難しいもので、大人の学び直しや読書の入門としても最適な本だ。
歴史上の偉人も、誰もがはずれ者で変わり者だったし、幸福度の高い集団は、皆が皆の個性を認め合っている集団だったりする。

自分のことをもっと好きに思えるようになる本であり、他人との関わり方を見直させてくれる本でもある。

ヒトを生んだのは自然であり、大切なことは、親である自然が全て教えてくれるのだと思う。